DENON AH-C820 レビュー|低音の真髄
今日は、DENONのフラッグシップイヤホンであるAH-C820をレビューしていこうと思う。
商品の詳細はHPを見てもらえればわかるので、ここでは音質と使用感について話していくことにする。
ひとまずは良い所と悪い所を上げ、それぞれの点について掘り下げていこうと思う。
良い所&悪い所
まず、AH-C820の良い所は以下の通り。
- 音質
- 耐久性
悪い所は以下の通り。
- 装着感
良い所「音質」
今回、音質は以下の機材で判断した。
- UR242(USB-DACの代わり)
- Cubase(PCの音楽再生プレイヤーの代わり)
- DENON AH-C820
具体的なつなぎ方については以下の記事で書いているので参照してほしい。
KZ ZS7を改めて聴きこむ|イヤホンレビュー - Tecの路地
音質を判断するために聞いた曲は以下の通り。
- 顔も覚えてない.flac(ポルカドットスティングレイ)
- ワンマンライフ.flac(夏代孝明)
- Overture.mp3(周平)
- アイネクライネ.flac(米津玄師)
- Goest of smile.flac(EGOIST)
それぞれの曲に対する音質の出方についてはレビューしない。
あくまで、これらの曲を聴いて感じたことを書く、ということを了承して読んでほしい。
まず、全体的な音の傾向はドンシャリだ。
具体的には、超低音までしっかり出る、低音強めのドンシャリ。
中高音の主張は強くはない、刺さらない程度。
特筆すべきは低音の解像感。
十分な駆動力を与えてやれば、量感と解像感の両立された低音を聴くことができる。
今まで聴いてきたどんなイヤホンよりも低域の解像感は素晴らしいかな。
というか、このイヤホンに低域の再生で勝るイヤホンは存在しない、そう言い切れるくらいには素晴らしい低音を鳴らす。
中域はまずまず出てきて、非常に自然なボーカルだけど、さほど近くはない。
中高音は刺さらない程度に、バランス良く鳴っているかな。
主張は強くないから聞き疲れはしない。
(ただし低音が苦手な人を除く)
高音は若干抑え気味で、明瞭感は必要十分。
BAイヤホンのような、スカッとした明瞭感は無いから、キラキラしたどこまでも伸びるような高音が好きな人は合わないかも。
超高音も抑え気味かな。
超高音が良く出ていると、非常に神経質で嫌な音を出す。
こういう音は、最初は綺麗な音に聞こえるけど、長時間聴くと、耳が痛くなってくる。
耳が痛くない、これは重要。
さて、ざっくりとした傾向をできるだけ主観を入れずに書いてみた。
ここからは、僕の感想だ。
AH-C820は、僕が聴いてきたイヤホンの中で、最高の製品だと思う。
非常に質感の高い、ハッキリクッキリ聞こえるベース、地鳴りのようなドラム、自然でフラットなボーカル、どれをとっても一級品だ。
流石は日本の老舗オーディオメーカーだ。
DENONのイヤホン、ヘッドフォンは低価格のモノから、高価格のものまで、音作りに一貫性があるように思う。
当然、低価格なものは音のグレードは低い。
でも、抑えるべきところはしっかり押さえているし、音の傾向は似ている。
どっしりと腰の据わった筋肉質な低音と、自然なボーカル、そして聴き疲れしない音。
これらはどの価格帯の製品にも共通していると感じる。
(スピーカーについては詳しくないので他のサイトを見るべき。)
今回レビューしているC820は、DENONのイヤホンのフラッグシップということで、シリーズ最高級の音質だ。
低音以外の音、高音、中高音などについては、もっといい音のイヤホンはあるかもしれない。
でも、ここまでのクオリティ低音とまとまりのある音のバランスを両立できるイヤホンなんて他にないだろう。
当然だけど、非常に締まった低音を鳴らすから、音場感はさほど広くない。
というのも、音場感の広いイヤホンは、つまるところ低音がぼけているイヤホンだ。
低音が量があって緩くて、明瞭感が高い、それが音場感が広いイヤホンだと、個人的には思う。
低音の音質と、音場感は両立しない。
低音の解像感が高いほど、空間は狭く感じるし、低音が緩いほど、空間は広く感じる。
なぜ?と思う人もいるだろうから説明しておく。
音というのは、周波数が大きいほどまっすぐ進み曲がれない。逆に周波数が小さいほど、よく回り込む。
例えばライブ会場などでドラムを叩くとき、ハイハットのように周波数の大きい音は、観客にダイレクトに届く。
壁際で反響はするが、ドラムの位置からまっすぐ飛んでくるように聞こえる。
しかし、バスドラのように周波数の小さい音は、ライブ会場全体に反響し、広がるように聞こえる。
ハイハットほど鋭く聞こえないだろう。
これは波の「回析現象」が、高周波であれば起きにくく、低周波では起きやすいためだ。
低音がぼやけていれば(低音の質が悪ければ、低音の楽器の音の輪郭がぼやけていれば)、音場感は広く聞こえやすい。
だから低音の質感、音質と音場感は引き換えとなる。
それと、AH-C820は、ハイスピードな音楽よりもある程度落ち着いた曲で真価を発揮するように思う。
今回聴いた曲では、EGOISTのGoest of smileや米津玄師のアイネクライネ。
低音の密度感が高すぎて、あまりハイスピードな音楽だと、ちょっと全体の密度が高すぎて窮屈に感じるときがある。
僕はこの高密度な音が好きなので良いんだけど、いままでUE900sのようなBA主体のイヤホンを聴いてきた人は驚くかもしれない。
あと、このイヤホンは振動板が直径11.5 mmのモノが二つ搭載されているためか、若干駆動しにくい。
スマホ直では間違いなく低音がボケるし、DAP直でもモノによっては駆動しきれないかも。
ポータブルアンプをアナログ接続でつなげて鳴らすと、低音の輪郭がハッキリしたように思う。
最後に、このイヤホンは、一聴してわかる高音質なんてものは無い。
しばらく聞きこんで初めて見えてくる音質の良さがあり、一度それを知ると、売ろうとは思わなくなるだろう。
世の中にはパッと聞いて高音質に聞こえるイヤホンが良くあるが、そういうものの大半は良く聞きこむと、どこか違和感を感じたり、物足りなかったり、耳が痛かったりして手放してしまう。
でも、このAH-C820は聞けば聞くほど、良い音だと感じることができる、類稀なイヤホンだと思う。
皆さんも是非、一度手に入れて、良く聞きこんでみてほしい。
良い所「耐久性」
もうここからはオマケみたいなものだけど、あえて言うと、ケーブルが太く、耐久性は高い。
リケーブルを前提としない、2pinやmmcxコネクタの脆弱性を考え他のではと思う。
リケーブルできるイヤホンは、一見断線しても変えられるというメリットがあるように思える。
しかし、MMCXコネクタのメス端子の真ん中なんか、1 mm以下の金属の筒になっているため、ケーブルを変な方向に引っ張ると、ここがゆがむ可能性がある。
それに、mmcxも2pinもどちらも、ゴミが入ればもう使えない。
そのようなウィークポイントを作るより、端からリケーブル不可能にした方が耐久性は高いだろう。
悪い所「装着感」
装着感、これについては開発者に文句を言いたい。
今までつかってきたイヤホンの中で、2番目に装着感が悪い。
いや、悪いというより、付属の純正イヤーピースは全てがそもそもフィットしない。
そのため、ユーザー側が自分で耳にあうイヤーピースを探す必要がある。
これは、イヤホンのノズルの短さが大きな原因だろう。
以下の写真を見ると分かるが、非常にノズルが小さく、イヤーピースをつけて耳穴に入れようとすると、筐体が邪魔して入らない。
僕はたまたま所持していたイヤーピースの一つを使ったときにフィットしたからいいが、他のユーザーは困るだろう。
ちなみに僕がフィットしたイヤーピースは、KZ ZS7に付属するイヤーピースのMサイズだ。
何故これがフィットしたのかわからないけど、凄い偶然もあるものだなと。
写真
総評
このAH-C820の音質はイヤホンでは最高峰のモノだろう。
少なくとも、僕がEイヤホン等で視聴した限り、他のどのイヤホンにも出せない音を出している。
しかし、装着感に関しては、ユーザー側で研究が必要だ。
このイヤホンを使う上で、自分に合うイヤーピースを探さなければならない。
当然、他のイヤホンではフィットするイヤーピースでも、このイヤホンではフィットしない。
これだけが残念だ。